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9月23日秋分の日、海外進出支援業務をさせていただいている私のところに、ショッキングなニュースが飛び込んできました。英国の老舗旅行代理店「トーマスクック」が破産申請をしたのです。譲渡や再生による事業継続が見込まれる倒産ではなく、完全な破たんである破産申請でした。この会社が発行する旅行商品を使って国外に滞在中の旅行者数は15万人超であり、その人たちのすべてのツアーが同日付で無条件にキャンセルされる事態となりました。海外旅行の途中で手持ちの旅行券や航空券が紙くずになるという、旅行者にとってはまさに悪夢のような出来事です。英国政府は海外旅行中の自国民を無事に帰還させるために、専用のチャーター便を用意して2週間かけて輸送する帰国支援計画を発表しました。平時における自国民の帰還作戦としては過去最大規模、という異例の状況が発生しています。

トーマスクックは世界で最初の旅行代理店であり、その後全世界の旅行代理店がその経営手法をまねてきた、いわば旅行代理店のお手本となった老舗企業でした。トーマスクックのトラベラーズチェックを利用した経験をお持ちの方もあると思います。そして今、世界各国は好景気によって海外旅行ブームに沸いており、海外旅行者数は年々うなぎのぼりに増えています。このような追い風の状況の中で起こった経営破たんに、世界の旅行業界は大きなショックを受けています。一方で、このような事態は、起こるべくして起こったという指摘もあります。それはネット専業旅行代理店との競争激化による、ビジネス機会の変化です。

世界最大の旅行代理店は今ではネット企業に置き換えられています。そのトップに君臨するのが、ブッキングドットコムで知られるプライスラインであり、次点がマイクロソフトから分離独立したエクスペディアです。どちらも年間8兆円の売り上げを誇る巨大企業となり、トーマスクックの3倍以上の規模に成長しました。日本では10月から消費増税が実施されましたが、これによる増収効果は5.6兆円なので、ネット旅行代理店の売上規模がいかに大きいかがわかります。これらネット専業のライバル企業に、老舗旅行代理店のビジネスが根こそぎ持って行かれたのです。

1855年に世界初の海外旅行という商品を生み出し、1872年に世界一周旅行を発案し、1874年に世界初のトラベラーズチェックを作り出したかつての先進企業も、インターネット時代の変化にはついていけなかったのです。まるで平家物語の序文を地で行くようなストーリーですが、IT技術の進歩は世界最古の老舗旅行代理店も無残に叩きのめす、恐るべき時代の変化を引き起こしていることを改めて感じさせられました。

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