1964年のオリンピックを契機に高度経済成長を謳歌した日本経済は、バブル経済崩壊後の1990年代以降は成長が止まったかのようにGDPが停滞したまま現在に至っています。日本が奇跡の成長をしたのは技術が優れているから、長期停滞に陥ったのは経済政策に問題があったなどと言われます。しかしGDP成長の要因は実は単純で人口の増減によるものだと、デービッドアトキンソン氏は著書の「新・観光立国論、東洋経済」において精緻な分析を踏まえて述べられています。氏は生まれ育った英国で日本学を学び、ゴールドマンサックス日本支社で15年間証券マンとして働いた後、古美術品の修復を手掛ける小西美術工芸社に転職し、2011年に社長に就任した異色の経歴の持ち主です。今では日本の観光産業に深い造詣をお持ちです。
日本が世界第2位の経済大国であったのは、先進国中最多の3億人の人口を持つ米国に次いて1.3憶人の人口を持っていたから。欧州でドイツの経済力が突出しているのは人口6千万人以下の欧州各国の中において、8千万人と突出した人口を持っているからと、そのわかりやすい分析力に納得させられます。
2005年にピークを迎えた日本の人口は、これから減少トレンドが継続するので、このままではGDP成長は難しくなります。GDPを再び成長させるには人口を増やす必要がありますが、出生数を大きく改善するのは簡単ではありません。移民を受け入れれば海外から人が流入して人口が増えますが、これは日本人には受け入れにくい政策だと考えられます。次善の策となるのが短期の移民である外国人観光客、いわゆるインバウンドの受け入れです。インバウンドが増加すれば、日本の人口が増加したのと同じ経済効果が生まれます。これこそが日本経済の持続的な成長のためのわかりやすい処方箋だと言えます。
インバウンドによる影響を観光業だけで考えると、大きな全体像を見誤ります。彼らがもたらす経済効果は、うまく取り込むことができれば、観光業や小売業だけでなくサービス業、建設業、農業、製造業まで、多岐にわたります。その結果多くの地域産業が潤い、ひいては日本経済の再発展に繋がるものと期待できます。日本政府には経済政策として公共事業や金融緩和にとらわれず、インバウンドを活用した人口増による経済発展にもっと目を向けてもらいたいものだと思います。これこそがGDPを再び8%の高度経済成長につなげる道筋だと、先述のデービッドアトキンソン氏も分析されています。我々はこれから日本にやってくるインバウンドを温かく迎えて、観光大国としての日本を目指したいものです。
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