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ARの進歩と危険性

世界中のスポーツファンを熱狂させた北京オリンピックが閉幕しました。会場の中央にくっきり浮かび上がり金色の雪を降らせた、幻想的映像をご覧になった方も多かったと思います。この映像が浮かんでいるところには会場の聖火台があり、会場にいる人々には聖火台が見えているのですが、映像を見ている人々には聖火台は見えず、CGによる映像があたかもその場所に存在するように見えているのです。このような、リアル映像の中にバーチャル映像を重ねて、それが現実世界のように見せる技術をAR(拡張現実)と言います。

 今より上の世代の人々には、「合成写真」という言葉が一世を風靡した時代が、記憶にあるかもしれません。人が書く文章には嘘があっても、写真は嘘をつかないと信じられていた時代に、写真を合成する技術が開発されて、その技術で作られた写真が新聞や雑誌に掲載されていたことがわかり、報道写真に対する信用が一時失墜する事態となりました。

 時代が変わって、ARで作られた映像には現実の世界に迫るリアリティがあります。これが平和の祭典に使われている間は良いのですが、悪意を持つ人の手に渡ると危険な使われ方がなされるかもしれません。世界の各地で紛争が続いていますが、その前線を見せる映像にARが使われると、世論を為政者の意に添うように操ることも可能になるかもしれません。AR技術は使われ方によって、人々を平和な世界に導く神の手にも、邪悪な地獄に導く悪魔の杖にもなりかねません。

 VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を簡単に作ることができる現代に生きる我々が、それらの幻想世界から本来の現実世界へと、自分自身を引き戻す手段はあるのでしょうか。唯一の方法は、目の前の映像を簡単に信用しないことだと思います。「新聞は嘘をつくがテレビは嘘をつかない」と語る著名な政治家がいましたが、今はテレビもAR技術を使えば嘘をつくことができます。

正しい現実を知るには、数多くの映像の中から正しい映像を選択する力が必要となります。そのためには日頃からインターネットの動画サイト利用法に慣れておき、同じテーマの映像を複数見る習慣を持つようにすると、動画の識別力が養われます。気になるニュースは、テレビの映像だけでなく、インターネット上に掲載される映像も見比べ、どれが正しい映像なのか自分自身の目で判断することが、これからの時代にはますます重要になると思われます。